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東京地方裁判所 平成元年(特わ)1463号 判決 1990年1月22日

本店所在地

東京都新宿区四谷三丁目一三番地

都市美研開発株式会社

(右代表者代表取締役 竹内征春)

本籍

東京都杉並区南荻窪四丁目三五番

住居

東京都新宿区須賀町三番地オオキス四谷四〇五号室

会社役員

竹内征春

昭和一八年七月六日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官渡辺咲子出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人都市美研開発株式会社を罰金二七〇〇万円に、被告人竹内征春を懲役一年六月及び罰金二七〇〇万円に各処する。

被告人竹内征春においてその罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。

被告人竹内征春に対し、この裁判確定の日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用は、その二分の一ずつを各被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人都市美研開発株式会社(以下、被告会社という。)は、東京都新宿区四谷三丁目一三番地に本店を置き、不動産の売買、仲介、管理、賃貸等を目的とする資本金三〇〇万円の株式会社であり、被告人竹内征春(以下、被告人という。)は、被告会社の代表取締役として、被告会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、不動産売買取引の当事者を偽る契約書を作成し、売上の一部を正規の帳簿に記帳せず、会議費、旅費交通費等を水増計上し、報酬、賃借料、水道光熱費等に被告人個人の費用を計上するなどの方法により、所得金額及び課税土地譲渡利益金額を秘匿した上、昭和六〇年七月一三日から昭和六一年五月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二億八七七六万〇六七八円(別紙1修正損益計算書参照)、課税土地譲渡利益金額が三億七四〇九万九〇〇〇円あったのにかかわらず、被告会社の法人税の納期限である昭和六一年七月三一日までに、東京都新宿区三栄町二四番地所在の所轄四谷税務署長に対し、法人税確定申告書を提出しないで右期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額一億九八五一万七九〇〇円(別紙2脱税額計算書参照)を免れたものである。

(証拠の標目)

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書六通

一  松下年男、吉川幸雄、両角正隆、両角俊、延原宏和の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏作成の調査書二八通

一  検察官作成の捜査報告書

一  検察事務官作成の捜査報告書

一  登記官作成の登記簿謄本

(事実認定の補足説明)

弁護人は、被告人は被告会社の業務に関し、法定納期限までに確定申告書を提出しなかったが、被告会社の所得中一億八一三八万一五五七円、土地譲渡利益金額中一億七一〇八万三〇〇〇円分に対応した法人税額を申告する意思があり、同部分についてはほ脱の故意はなく、その範囲でほ脱犯は成立しない旨主張するが、当裁判所は、被告人には判示認定の法人税額をすべてほ脱する故意があったと認定したので、以下その理由を説明する。

前挙示証拠によれば、<1>被告人は、昭和六〇年一一月品川区東五反田の土地の売買につき、株式会社エム・エス・ケーを売買当事者、被告会社を仲介人とする契約書を作成し、まもなく売買差益の内一億七五〇〇万円を用いて杉並区上荻に土地建物を求め、土地は被告人名義、建物は被告人と竹内妙子の共有名義にし、また右差益で右土地建物の仲介料を支払うなどし、昭和六一年一月港区赤坂の底地売買につき、契約書に立会人として何等関与しない株式会社住友美研を記載した上、まもなく売買差益を用いて杉並区桃井に四五〇〇万円で土地建物を取得し、いずれも被告人と竹内キミ子の共有名義にし、また竹内妙子名義で五〇〇〇万円、竹内征仁名義で一〇〇〇万円の定期預金をするなどした、<2>被告人は、被告会社従業員に指示して昭和六〇年一二月までは小口現金の出金を現金出納帳に記帳するも、他に系統的な簿記の記帳をせず、入金伝票、出金伝票を起票し、これを月別に綴り「現金出納帳」とし、あるいは領収書、請求書等を綴ったが、これらをもとに複式簿記等の記帳をしなかった、被告人は、入金関係では、東五反田物件の売買入金の起票をせず、雑収入中貸付利息の入金の起票をしなかった、出金関係では、東五反田物件の支払手数料の一部起票をせず、支払仲介手数料、給料、租税公課、事務用品費、支払利息につき一部起票漏れをし、これらの勘定科目を過少に計上した(但し、給料について架空・水増をした部分がある)が、会議費につき領収書を改ざんし、報酬につき不動産鑑定料を過大に起票し、被告人の個人的費用の領収書も綴り、賃借料、水道光熱費、修繕費、雑費につき被告人個人あるいは被告人の特別関係人の分をも起票し、旅費交通費につき架空の車借上料を起票するなどしていずれも過大に計上したほか、前記住友美研から買い受けた白紙領収書代三九五万円を起票するなどした、<3>被告人は、昭和六一年一月ころ顧問税理士を解任した後税理士を依頼せず、格別理由もないのに昭和六一年五月期の決算書、確定申告書の作成の準備もせず、前記土地建物等を換金するなどして納税資金を工面することもせず、法定納期限までに確定申告書を提出しなかった、<4>被告人は、査察調査開始当初、東五反田物件につき、被告会社は仲介をしたものと主張し、赤坂物件の取引につき、住友美研に仲介料を支払うほか、やくざに相当額の金銭を支払ったとその損失を主張し、他に黒川啓三らに対する架空借入金を主張するなどし、被告会社のほ脱の事実を否定した、<5>被告人は、ほ脱の事実を認めた後、昭和六三年一月修正申告をし、同年四月四二〇〇万円を納付したが、その後納税資金がないとして平成元年八月公訴提起されるまで支払っていない、以上の事実が認められる。

以上のとおり被告人は、収益を上げた二つの売買取引中、東五反田物件につき仲介手続きと仮装し、赤坂物件につき架空領収書を入手していた会社を契約書の立会人と記載する工作をした上、各売買差益を用いて他人名義で不動産を購入し、あるいは他人名義で定期預金をし、事業年度中経費関係について一部意図的に過大に記帳し、確定申告期にはその決算、確定申告書作成の準備、納税資金の工面などせず、納期限を徒過させ、査察開始後も架空の経費などを主張しほ脱の事実を否認していたものである。右認定の諸事実からすれば、被告人は、被告会社の代表者として、所得秘匿の事前工作を加えた上、所得及び土地譲渡利益金額に対応する法人税額をすべてほ脱しようとしたものと認定することができる。

弁護人は、前記主張の論拠として次の各点を主張するので、順次判断を付加する。<1>被告人には東五反田物件の買主丸藤商事株式会社からの仲介料名目の五七〇〇万円の入金を計上する意思があった旨主張する。しかし、被告人は売買契約当時右入金を入金伝票に起票していない。また被告人は、売買契約後前記エム・エス・ケーらから同社が売買当事者として課税されることのないよう売買契約書の書換を求められていたのにこれに応ぜず、昭和六二年二月同社が税務調査され、右代表者吉川幸雄から、同社は仲介者に過ぎないことの証明を強く求められた際、真実の譲渡価格は二一億一二九〇万円であるのに、二〇億五五九〇万円と述べ、右仲介料名目の五七〇〇万円の入金の事実を明らかにせず、譲渡価格と譲受価格との差額から住友美研へ仲介料五四三五万円、関係会社に調整金として五〇〇〇万円をも支払ったと仮装し、手元に残ったのは六一七〇万円であり、エム・エス・ケーからの仲介料の入金は六一七〇万円であると税務署に説明するよう求め、同金額の架空の領収書を作出(被告人の検察官に対する平成元年八月二日付供述調書添付資料三)し、右五七〇〇万円の入金の事実を秘匿した。右諸事実からすれば、納期限当時右五七〇〇万円の入金を公表計上しようとしたとは推認できない。<2>被告人には右エム・エス・ケーからの仲介手数料名義の六一七〇万円分を売上計上する意思があった旨主張する。しかし被告人は、前認定のとおり昭和六二年二月吉川幸雄から税務署への説明資料を強く求められたため、右領収書を作成したものに過ぎず、その際虚偽の説明をした上なお仲介料の領収と偽ったこと、それまでの間被告会社を売買当事者とする売買契約書の書換に応じなかったことからすれば、納期限当時同金額部分の入金を公表計上しようとしたとは認められない。<3>被告会社は新宿区北新宿物件につき合計五七〇〇万円を売上起票しており、被告人にはこれらにつき売上として計上する意思があった旨主張する。しかし、同物件は、昭和六一年五月期末には未だ成約に至っておらず、確定申告にあたりこれらを売上として計上することは通常考えられない上、実際の入金はその内二五〇〇万円で、三二〇〇万円は仮装なものであり、その起票自体不自然なところがあり、右主張事実は推認できない。<4>被告人は起票された入金伝票と過小に計上された出金伝票等から算出される所得並びに赤坂物件の土地譲渡利益金額に対応する法人税額については申告納付する意思があった旨主張する。しかし、前指摘のとおり被告人は納期限までの間に「現金出納帳」、領収書綴り等をもとに損益計算書、貸借対照表等を作成して決算をしようとした事実はなく、東五反田、赤坂物件の取引の売買差益は取引後まもなく大半費消し、納期に納税するべく換金しようとせず、調査開始後も種々損金の存在を主張し納税義務を争っていたことに照らし、起票された伝票をもとに所得を算出し納税しようしたとは認められない。また、赤坂物件の土地譲渡利益金額につき、その売買契約書には架空の領収書を入手していた住友美研を立会人とし、査察後もやくざに対する支払いの雑損を主張したことに照らし、譲渡価格、譲受価格、真実の仲介料額を前提に土地譲渡利益金額を算出しようとしたとは推認できない。

したがって、弁護人の主張、論拠はいずれも採用できない。

(法令の適用)

判示所為 被告会社 法人税法一六四条一項、一五九条一項、情状により同条二項

被告人 法人税法一五九条一項、情状により同条二項

刑種選択 被告人 懲役刑及び罰金刑選択

換刑処分 被告人 刑法一八条

執行猶予 被告人 刑法二五条一項(懲役刑につき)

訴訟費用 両名 各刑事訴訟法一八一条一項本文

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 被告会社につき罰金三〇〇〇万円、被告人につき懲役一年六月及び罰金三〇〇〇万円)

(裁判官 柴田秀樹)

別紙1

修正損益計算書

<省略>

別紙2

脱税額計算書

<省略>

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